【温泉旅館ー集客の秘策】顧客満足・感動体験を提供するには?今こそ実施すべき料飲サービススキルアップの施策

旅館にとって集客のための最も重要な対策とは何なのでしょうか?ホームページ、SNS、ネット広告、楽天やじゃらんといったOTA(Online Travel Agentーオンライン・トラベル・エージェント)など、デジタル周りの施策を思い起こす方は多いことでしょう。しかし、それらは今や出来て当たり前、整えて当然というレベルにまで各施設とも力を入れています。つい集客の方法に目がいきがちですが、実は、遠回りのように見える「サービスレベルの質を上げること」が集客する上での大事な要素となります。ご存知のように、お客様は旅館選びの重要なポイントとして、口コミ等他のお客様の声を重要視しています。ではお客様は何をもって口コミを発するのか?それは「嬉しい」「美味しい」「心地いい」などの〝心が動かされた体験(感動体験)〟をすることで、誰かに伝えたい、言いたいとの心持ちとなります。それは逆のことも言えて、「悲しい」「不味い」「居心地が悪い」ことも同様です。そのために大事になってくるのが「人(サービススタッフ)」の存在です。
いま、日本国内宿泊業界は著しい人材不足に直面しています。地方の観光旅館などは更に加速度を増して人材確保の難しさが問題化しています。高度経済成長後、バブル期を経験し、宿泊業界の競争が激化。高齢化社会になって旅行需要が益々増加し、おもてなしを重視する日本人全体がある種の“サービス慣れ”をしてきました。現代は顧客の期待が大きくなり、更に多様化してきており人材の数・量の確保だけでは満足値はなかなか上がらない状況です。今後は、人材育成による質の確保が求められる時代だと感じます。
旅館の顧客満足に直結する食事のサービス
旅館や宿泊施設にとって、人的サービスは重要な役割を果たし、リピート客に直結する大きな要素だとも考えます。また、そのサービスの如何によって、お客様の感情は変化します。さらに旅館や宿泊施設の善し悪しを大きく左右するのが、料理を召し上がる際の「時間」です。他部署と比較しても顧客と共にする時間は圧倒的に多いため、各施設で業務改善のために顧客に依頼する”アンケート“などにも良くも悪くも書き出される割合も高いようです。
旅館であればフロント、調理と同等に、料飲サービススタッフの人材育成は不可欠です。しかし、重要視されているにも関わらず、そのサービスをどう改善すればいいのかと悩むオーナーや責任者も多いのではないでしょうか。
旅館のサービスの質的向上を図るには?
ここからは、料飲サービスの質的向上を図るポイントはどこにあるのかを探って参ります。
〔1〕お食事会場にお客様を受入れるまで
お食事前の時間帯を有効に使って、お客様に喜んでいただけるサービスとは、どんなサービスでしょうか?本質的には、お客様の気持ちに寄り添ったサービスであり、心安らぐ気配りです。お客様の心の声で言えば「こんな事までしてくれるの!」「私の事、わかってくれてるな」と思われるような対応です。
その為には当然のこととして準備が大事です。とかく、お皿やグラス、お箸などのテーブルセットや必要備品の確認に多くの時間を費やす準備だけに終始してしまいがちです。ここでいう準備とは・・・
① スタッフ全員がお客様に喜んでいただきたいとの思いでひとつになることと―目的観と思いの共有です。
② お客様の情報を事前に知ること―喜ばせるための個人的情報(年齢層から、好き嫌い、今回この旅館を利用した動機など)
③ 何が喜ばれるか想定すること―②を活かしながら思いを馳せる
これらのことです。
もう少し具体的には、過去訪問時情報・妊婦・子供・年配者・障がいを持つ方はいないか・アレルギーの有無・どの地域住まいか・食材や飲物の好き嫌い等、事前情報収集には際限はありません。また、事前情報以外にも時期によっては膝掛け準備や年配者に荷物を持つなどその時々によっての気配りや心配りがあります。
〔2〕当り前の事でも見直す
〔1〕では、お客様を受入れる前に時間を有効にと提案しましたが、その時間を大切にすることはサービススタッフ一人ひとりが、お客様のことを知り、心を込めてサービスできるようにするためです。目的と意識を明確にすることで、連動して多くの改善が生まれてくるものです。これが本来の業務改革であると私は思えてなりません。さらに、サービスの本質とは何かを追求しながら、様々な角度から改善の試みを探ってみましょう。
100人いれば100通りの喜ばせ方がある
例えばワイン。グラス(ハウス)ワインなどは比較的安価なものを使用しますが、だからといってただ出すだけであれば喜ばれるサービスとはいえません。言葉一つ添えるだけでその価値は高まります。「このワインは○○産の辛口です。○○なこちらのお料理にはピッタリだと思います。」といった具合です。これは、各地の地酒や焼酎、最近ではクラフトビールなどにも同じことが言えます。
また、カクテルや果実酒を注文される女性がいますが、中にはアルコール自体あまり強くなく、何を頼むか迷っていらっしゃる方も中にはおられます。せっかくの機会だから一口だけと。そのような方に対しては「お客様のイメージに合ったお飲み物をお持ちいたしましょうか・・・。例えば普段はどのようなお飲み物をお召し上がりですか?」などと会話するのもいいでしょう。そんな会話の中から日常で味わえない特別感を楽しんでいただくことも重要です。更に言えば一歩踏み込んだサービスが重要です。ファーストドリンクにビールを注文された次には、先んじて「次はお魚料理になりますが、日本酒をご用意しますか?若しくはワインなどもございますが?」と声がけをしてみる。大事なことは違っていても良いので「どうされると嬉しいか」を予測する事です。お客様に伝わるのは、喜んでいただきたい!との想いです。“自分がされて嬉しいことをお客様にして差し上げる」。サービス現場で良く耳にする言葉です。しかし、例えば、お酒を飲まない人にとって、お酒を飲む人の「嬉しい」はなかなか分かりにくいものです。だからこそ、より多くの“されて嬉しいこと”より多くの方の“価値観”を知ることが重要です。自分にはない価値観であっても、「こうされると嬉しい」を聞くことで自分のものにする事が可能になります。スタッフの数だけ気の利いたサービスを自分のものにできるのです。だからこそ、普段からのミーティングや勉強会でのディスカッションやトレーニングは有効ですし、とても重要です。
顧客感動を創出するサービススタッフの心構え
お料理をベストな状態でより美味しく召し上がっていただくことはサービスにとって重要な要素です。提供される料理に興味をもっていただくことは、大事な仕事です。産地や特徴、味わうポイントなど簡潔でありながらも説明を加える。これもお客様に喜んでいただくための大事なスキルです。
〔1〕サービスするプライド
一人ひとり個性も好みも趣向なども違うお客様を喜ばせることのできるのは最前線にいる料飲スタッフの醍醐味との意識があるでしょうか?世界の先進国と比べ、残念ながら日本全体ではまだ、料飲サービスの地位は低いと言わざるをえません。欧米ではサービス長を“メートル・ドテル”といい、老舗ホテルなどでは、経験や技術、見識、人物的な資質を兼ね備えたレストランサービスのプロフェッショナルとして、不動の地位を保っています。フランスでは、最優秀職人賞を授与するコンクールが行われるほど、メートル・ドテルは重要な職種で、むしろ、大いなる尊敬の対象となっています。いわゆる料理長と同等の位置にあり、新メニュー考案の際もサービス長のOKがなければ提供に至りません。同等でありながらもそれぞれをリスペクトする文化です。
サービススタッフは一見お客様に従事する使われる立場で下に見られる傾向もまだまだ残っています。しかし、実は極めて奥の深い能力が求められる大事なポジションなのです。満足提供の重要ポジションとみるか、料理・ドリンクをそつなく出せればよいポジションとみるのかで臨む姿勢はまったく違ったものになっていきます。
喜んでいただきたいと真剣に思い、その為には能力も磨き抜いてこそ得られる充実感もあります。サービス現場のリーダーの方には、ひとりひとりに常に“サービスする誇り”を持たせる事が求められます。
〔2〕質の高いサービス提供とは
質の高いサービスとは料理の出し下げが素早くスマート、料理に精通していて、そつなくこなすサービスではありません。前述したように、本当に良いサービスとは、「こうしたらきっと喜んでいただける」ということを行い、お客様の喜びを我が喜びにできるサービスです。同じようなやり方や方法でサービスしても、そのスタッフ自身に喜びがなければお客様に伝わるものは決定的に違ってきます。スマートに見せるため、料理の価値をあげるため、リピーターを増やすため、サービスの効率化のため、人員削減のためのサービス業務ではありません。
サービスは、今、目の前にいるお客様を最大限喜んでいただくためにするのです。一見同じように聞こえるようですがこの順番は重要です。
そのためにサービス技術を磨き、知識を学び、その結果として質の高いサービスを提供するのです。これは、レストラン等の飲食店に限ったものではなく、ホテル、旅館などにも同じことが言えます。
サービスでお客様に喜んでいただきたいと一流のおもてなしを志すスタッフが、いつしか目的・目標を見失い退職していくのを私自身も何度も見てきました。熱い想いを抱きつつも先々の自分の姿やスキルアップが見えなくなってしまうことも大きな要素の一つです。だからこそ将来像を明確にするシステムも重要だと考えます。そういった意味での可視化や具体的なキャリアイメージもこの仕事での課題の一つです。
旅館オーナーや現場リーダーの責務とは
同時に仕事という義務感では、ホスピタリティの精神は育めませんし、質の高いスキルや知識を身につけるのも限界があります。しかし「好きになる事が大事だ」と言っても、好きになるものではありません。その実践は、お客様から喜ばれる体験をスタッフ自身に積ませることです。
例えば、「あちらのお客様はこういった方だからこういう話題で話しをしてみたら・・・」とテーブルに送り出します。その話題を元に喜んでいただく創意と工夫が生まれます。また生まれるまで繰り返し指南、アドバイスすることが必要です。
お客様の喜びや感動の反応は、スタッフにとってはかけがえのない財産となります。お客様からの「嬉しい・助かる・ありがたい」という歓喜・感動を積み重ねること、その積み重ねがサービスするプライドへと昇華します。義務感を使命感やプライドへと昇華せしめるのは、オーナーや現場リーダーの責務です。
その純度が高めれば高いほどスタッフは感化され、お客様を喜ばせるアンテナは自然と高くなっていくものです。
顧客の満足から感動体験へ
以上、料飲サービスのシーンを中心に、如何にして顧客満足を生んでいくか?ポイントをまとめてみました。SNSをはじめとしたインターネットの普及や顧客対応のDX(デジタルトランスフォーメーション)化によってサービスレベルはどんどん高いレベルが要求されているのが現実です。しかし、一方でサービスを提供する主体である人間のレベルアップはなかなかされていないことも指摘されています。サービスを提供する主体である私たちが感動していないのに、それを受け取るお客様が感動するはずも有りません(シビレエイの法則)。
顧客の感動体験を創り出す側として、まずは自らの技術的、人間的レベルアップをはかり、多くのお客様が感動の思い出を味わえるよう日々精進していきたいと考えています。
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